退職給付金とは？仕組み・種類・受給条件を徹底解説

退職給付金とは何かをわかりやすく解説

退職給付金の基本的な位置づけ

退職給付金とは、従業員が会社を退職した際に受け取れる経済的な給付全般を指す広い概念です。単なる「退職金」という企業独自の制度に限らず、公的制度による給付や企業年金なども含まれます。目的は、退職後の生活を安定させ、再就職や新しいキャリアの準備をスムーズに行えるよう支援することにあります。

退職金との違い

退職金は、企業が独自に設ける一時金や年金制度を指し、勤続年数や給与水準によって金額が決まるのが一般的です。一方で退職給付金は、退職金を含みつつ、公的な失業給付や教育訓練給付など、幅広い制度を包括したものです。つまり、退職給付金は「退職に伴う経済的セーフティネット全体」を意味します。

公的制度と企業制度の両立

退職給付金には、雇用保険を基盤とする失業給付や再就職手当などの公的制度と、企業年金や確定拠出年金といった企業独自の制度の両方が存在します。これらは単独で機能するのではなく、組み合わせることで退職後の生活安定を強力に支える仕組みとなっています。従業員は自分がどの制度の対象になるのかを把握しておくことが大切です。

制度の目的と背景

少子高齢化や雇用の流動化に伴い、従業員が一つの企業で定年まで働き続けるケースは減少しています。そのため、退職後の不安を和らげ、安心してキャリアを築き直せるように整備された制度が退職給付金です。単なる生活費補填にとどまらず、再就職支援やスキルアップの機会を提供する役割も担っています。

退職給付金は退職後の生活を支える土台であり、退職金や失業手当などを含む広い制度の総称なんです。自分にとってどの制度が利用できるのかを理解しておくことが、安心したキャリア形成につながりますよ

退職給付金と退職金・失業手当の違い

退職後の生活保障を考えるうえで、「退職給付金」「退職金」「失業手当」は似た言葉として扱われがちですが、実際には制度の位置づけや対象範囲が大きく異なります。それぞれの特徴を整理しておくことで、自分にとって最適な受給制度を理解でき、退職後の資金計画に役立てることができます。

退職給付金と退職金の違い

退職給付金は「退職に伴って受け取れる公的給付と私的給付をまとめた総称」です。雇用保険に基づく失業手当や教育訓練給付金などの公的制度に加え、企業年金や確定拠出年金などの企業独自制度も含みます。
一方で退職金は「企業が独自に設けている支給制度」のことを指し、勤続年数や給与水準、退職理由によって金額が決まります。退職時に一括支給されるケースや、年金形式で支給されるケースが一般的です。つまり退職金は退職給付金の一部に含まれる存在であり、より限定的な意味合いを持っています。

退職給付金と失業手当の違い

失業手当は、正式には「雇用保険の基本手当」と呼ばれ、退職給付金の中核的な制度です。働く意思と能力があるにもかかわらず就職できない場合に、生活費を補う目的で支給されます。
ただし失業手当は「雇用保険に一定期間加入していたこと」「ハローワークで求職申込を行っていること」といった条件を満たす必要があります。給付日数は年齢や加入期間によって90日から330日程度となり、早期再就職を促進する再就職手当などと併用されることもあります。
つまり、退職給付金は広範囲の給付を含む包括的な制度、失業手当はその中で最も代表的な生活保障給付という位置づけになります。

違いを整理すると

• 退職給付金：公的給付と企業独自制度を含む総称
• 退職金：企業が独自に支給する退職一時金や年金制度
• 失業手当：退職給付金の一部で、雇用保険に基づく生活保障給付

退職給付金は大きな傘のような制度で、その中に企業退職金と雇用保険の失業手当が含まれているイメージを持っていただくと理解しやすいです。混同しやすい言葉ですが、役割と対象範囲を分けて押さえることが大事ですよ

退職給付金の主な種類一覧

退職給付金には、公的制度に基づく給付と、企業が独自に用意している制度の両方があります。ここでは代表的な種類を整理して解説します。

雇用保険制度に基づく給付

失業保険（基本手当）

退職後の生活費を補う中心的な給付です。離職前の賃金を基準に日額が算定され、一定期間支給されます。自己都合退職でも受給可能ですが、待期期間や制限があります。

再就職手当

早期に就職が決まった場合、残りの失業給付日数を基準に一時金が支給されます。支給率は60～70％で、再就職を積極的に支援する仕組みです。

就業促進定着手当

再就職手当を受給した人が、新しい勤務先で前職より収入が下がった場合に補填されます。6か月間の収入状況で判断され、基本手当日額を基準に差額が支給されます。

教育訓練給付金

資格取得やスキルアップを目的とした講座を受講した際、費用の20～80％が補助されます。対象は一般・特定一般・専門実践の3区分に分かれており、受講費用や就職成果によって支給率が変わります。

広域求職活動費・移転費

遠方の企業面接や転居を伴う就職活動に必要な交通費・宿泊費・引越費用などを支給する制度です。全国規模での求職活動を経済的に支援します。

特別な立場に対応する給付

特例一時金

短期雇用で失業保険の受給条件を満たさない人向けに、一時金として基本手当日額の40日分が支給されます。離職日の翌日から6か月以内に申請が必要です。

高年齢求職者給付金

65歳以上で雇用保険に加入していた人に支給される一時金です。加入期間に応じて30日分または50日分の基本手当相当額が支払われます。

求職者支援制度

雇用保険を受給できない人や給付終了者を対象に、月額10万円と交通費を支給しながら職業訓練を提供します。非正規雇用者やフリーランスなども利用できます。

傷病手当金

病気やけがで求職活動ができない場合に支給される生活補償です。直近の報酬を基準に日額の3分の2が支払われ、最長で1年6か月受給できます。

企業が設ける独自の給付

退職一時金

企業が独自に定める退職金制度の一つで、勤続年数や退職理由によって金額が変動します。

企業年金

確定給付年金（受給額があらかじめ決まっている方式）や確定拠出年金（拠出額を積み立てて運用する方式）が代表的です。公的年金と併せて老後の資金を補完します。

退職給付金は種類が多くてややこしいですが、自分の状況に合うものを選んで申請することが大切です。期限を過ぎると受け取れなくなるものもあるので、早めに確認して動くようにしてくださいね

退職給付金はいくらもらえるのか

退職給付金の金額は「どの制度を利用するか」「退職理由」「年齢」「雇用保険の加入期間」などによって大きく変わります。目安を知っておくことで、退職後の生活設計を立てやすくなります。

失業保険（基本手当）

最も中心となるのが雇用保険から支給される失業保険です。金額は直前6か月の給与（賞与除く）をもとに計算される「賃金日額」の45〜80％（年齢により異なる）が「基本手当日額」として支給されます。上限額は年齢区分ごとに決められており、2025年度は以下の通りです。

• 30歳未満：7,065円
• 30歳以上45歳未満：7,845円
• 45歳以上60歳未満：8,635円
• 60歳以上65歳未満：7,420円

受給できる日数は退職理由や加入年数で90〜330日（就職困難者は最大360日）となります。たとえば賃金日額1万円・45歳で会社都合退職し、給付日数が180日の場合、基本手当日額は上限の8,635円、総額は約155万円が目安となります。

再就職手当

失業保険を全額受け取る前に再就職した場合に支給される一時金です。支給額は次のように計算されます。

• 支給残日数が所定給付日数の3分の2以上：基本手当日額 × 支給残日数 × 70％
• 支給残日数が3分の1以上3分の2未満：基本手当日額 × 支給残日数 × 60％

例として、基本手当日額5,000円・給付日数120日で、80日残して再就職すると 5,000 × 80 × 70％ ＝ 28万円が支給されます。

就業促進定着手当

再就職後の給与が以前より低い場合に差額を補填する制度です。上限は「基本手当日額 × 支給残日数 × 40％」で、再就職後6か月の賃金低下分を補助します。

教育訓練給付金

資格取得やスキルアップを目的に受講した講座費用の一部が支給されます。給付率は講座区分によって20〜80％、上限は10万円〜64万円と幅があります。たとえば専門実践教育訓練で1年間に60万円かかった場合、最大48万円（就職条件を満たせばさらに増額）が支給されます。

特例一時金・高年齢求職者給付金

短期雇用者や65歳以上の方に向けた一時的な給付もあります。

• 特例一時金：基本手当日額の40日分
• 高年齢求職者給付金：基本手当日額の30〜50日分

求職者支援制度

雇用保険を受けられない方を対象とし、職業訓練期間中に月10万円＋交通費が支給されます。

退職給付金は一律ではなく、加入期間や年齢、退職理由で大きく変わります。まずは自分がどの給付の対象かを確認し、失業保険を基準に再就職手当や教育訓練給付金を組み合わせると効果的です。計算が複雑に感じる場合は、必ずハローワークでシミュレーションしてもらうのがおすすめですよ

パート・アルバイトも対象になる条件

退職給付金は正社員だけのものと考えられがちですが、実際にはパートやアルバイトの方でも一定の条件を満たせば対象となります。ここでは、現行制度と今後の拡大予定について整理します。

雇用保険に加入できる基準

パート・アルバイトが退職給付金を受け取るには、まず雇用保険に加入している必要があります。そのための主な条件は次のとおりです。

• 週の所定労働時間が20時間以上であること
• 31日以上の雇用が見込まれること
• 学生でないこと（一定の条件を満たす場合は例外あり）

この基準を満たして雇用保険に加入していれば、退職後に失業保険や再就職手当などの給付を受ける権利が発生します。

短期勤務者向けの特例制度

契約期間が短く、雇用保険の一般的な加入条件を満たさない方には「特例一時金」があります。
離職前1年間に「11日以上働いた月が通算6か月以上」あれば対象となり、基本手当日額の40日分が一時金として支給されます。アルバイトや短期契約が多い方にとって大切なセーフティネットです。

制度拡大の予定

2028年10月からは雇用保険の適用範囲が拡大され、週10時間以上働く方も加入できるようになる予定です。これにより、従来は対象外だった多くの短時間労働者にも退職給付金を受ける道が開かれます。

受給のための注意点

パートやアルバイトの場合、加入期間や雇用形態によって給付日数や種類が変わることがあります。特に短期間での退職や副業をしているケースでは、受給資格が複雑になる場合もあるため、ハローワークで自分の状況を必ず確認することが大切です。

パートやアルバイトでも条件を満たせば退職給付金の対象になります。勤務時間や雇用期間を意識して制度を活用することが大切ですね。働き方が多様化している今だからこそ、自分に適した制度をしっかり確認しておきましょう

退職給付金を受給するための注意点

退職給付金は生活を安定させるための大切な制度ですが、正しく理解し行動しなければ受給できない場合があります。特に営業職やビジネスパーソンにとっては、再就職活動やキャリア形成に直結するため、注意すべきポイントを押さえておくことが重要です。

申請対象の条件を正しく把握する

退職給付金はすべての退職者に自動的に支給されるわけではなく、種類ごとに受給条件が異なります。

• 失業保険の場合は、離職前2年間で12か月以上の雇用保険加入が必要（会社都合退職なら1年間で6か月以上でも可）
• 教育訓練給付金は、指定講座の受講や雇用保険加入期間が条件
• 特例一時金や高年齢求職者給付金は、短期勤務者や65歳以上など対象が限定される

自分の退職理由や勤務状況を正しく整理し、どの制度に該当するのか確認しておくことが欠かせません。

申請期限を過ぎないように注意する

退職給付金には申請可能な期間が明確に定められています。

• 失業保険は「離職日の翌日から1年間」が受給期間の上限
• 特例一時金は「離職日の翌日から6か月以内」に申請が必要
• 高年齢求職者給付金も「1年以内」に申請しなければ支給されない

一日でも遅れると本来の権利を失ってしまうため、退職直後から手続きを進めることが大切です。

手続きや書類を正しく準備する

退職給付金の申請では、ハローワークを通じて離職票や身分証明書、場合によっては証明書類が必要です。

• 離職票の記載ミス（退職理由の誤りなど）は給付額や受給可否に直結
• 求職活動実績の不足は失業保険の支給停止につながる
• 再就職手当を狙う場合は、ハローワークへの事前相談が必須

特に複数の給付を併用する場合は手続きが複雑になるため、窓口で確認を徹底しましょう。

副業や就業状況に注意する

退職給付金の多くは「失業状態であること」が前提条件です。アルバイトや副業を始めてしまうと、就業と判断され給付が減額・停止される場合があります。就業可能性がある活動を行う場合は、必ずハローワークに事前相談をしておくことが重要です。

退職給付金は「権利」ではありますが、条件や期限を守らなければ受け取れなくなります。退職後は気持ちが不安定になりがちですが、早めに制度を確認し、必要書類をそろえて行動することが成功のポイントですよ

企業が行うべき退職給付金の案内と役割

退職給付金は従業員の生活安定を支える制度ですが、その正しい受給には企業側の対応が大きな影響を与えます。離職後に必要となる書類や情報を適切に提供できなければ、従業員が本来受け取れる給付を逃してしまう可能性があるため、企業には大きな責任があります。

離職票や証明書類の正確な交付

退職給付金の受給には「雇用保険被保険者離職票」や「雇用保険被保険者資格喪失確認通知書」などの書類が必要です。これらは退職者がハローワークで手続きを行う際の必須資料であり、発行の遅れや記載内容の不備があると給付開始が大幅に遅れる原因になります。特に「退職理由」の欄は、会社都合か自己都合かで受給開始時期や給付日数が大きく変わるため、誤りのない記載が求められます。

制度内容の分かりやすい説明

従業員の中には、退職給付金の仕組みに詳しくない人も少なくありません。企業は「失業給付」「再就職手当」「教育訓練給付金」など、退職後に利用できる制度の概要を簡潔に案内することで、従業員が自身に適した制度を選びやすくなります。パンフレットの配布や人事担当者による口頭説明など、複数の手段を用意しておくことが望ましいです。

誠実な対応が企業評価に直結

退職者への対応は、企業のイメージや採用活動にも影響します。誠実に案内を行えば「最後まで丁寧な会社だった」と好意的に受け止められ、口コミやSNSでポジティブな評価につながる可能性があります。一方、案内不足や書類の不備があると「辞めた人を軽視している」という不信感を招き、将来的な採用活動や企業ブランドに悪影響を及ぼすリスクがあります。

人材確保とコンプライアンスの観点

適切な案内は単に従業員のためになるだけでなく、労務コンプライアンスの観点でも重要です。特に中小企業では制度理解が不十分なケースが多く、意図せず違反につながることもあります。法令順守を徹底することで、企業としての信頼性を高め、優秀な人材の確保にも寄与します。

退職給付金の案内は「単なる事務作業」ではなく、企業の信頼を守る大切な役割なんです。退職者の将来を支援する姿勢を示せば、会社の価値も長期的に高まりますよ

退職給付金を有効に活用するためのポイント

退職給付金は受給するだけでなく、どのように活用するかによって将来の安定やキャリア形成に大きな差が生まれます。特に営業・ビジネスに携わる方は、収入の変動や将来設計を考えた戦略的な利用が欠かせません。

制度を比較して最適な選択をする

退職給付金には失業保険や再就職手当、教育訓練給付金など多様な制度があります。それぞれ対象者や条件、金額が異なるため、自分の状況に合うものを見極めることが重要です。たとえば、短期での再就職を目指すなら再就職手当を活用し、長期的にキャリアを見直す場合は教育訓練給付を組み合わせるなど、選択肢を整理して優先度を決めることが効果的です。

教育訓練制度でスキルを磨く

営業・ビジネス職はスキルの陳腐化が早いため、教育訓練給付金を利用して資格取得やデジタルスキルの習得に投資するのがおすすめです。専門実践教育訓練給付金では、受講費用の最大80％まで補助されるケースもあり、実質的な負担を大きく軽減できます。退職後の時間を自己投資に使うことで、再就職時の市場価値を高めることができます。

再就職手当を活用して収入減を補う

失業給付を受け続けるよりも、早期に再就職した場合の方がトータルで得られる金額が増えるケースがあります。再就職手当は残り給付日数が多いほど支給額も大きくなるため、早めの転職活動は金銭面でも有利です。さらに就業促進定着手当を受ければ、再就職後に給与が下がっても差額を補填できるので、安心して新しい職場にチャレンジできます。

生活費と投資のバランスを意識する

給付金は生活費に充てるだけでなく、計画的に分配することで将来の資産形成にも役立ちます。退職直後は収入が途絶えるため、まずは家計の固定費削減と生活防衛資金の確保が第一です。そのうえで余剰分を資格取得やスキルアップ、必要に応じて投資信託や積立型の金融商品に振り分けると、長期的な安定につながります。

制度の期限や手続きを徹底管理する

制度ごとに申請期限や手続き方法が異なり、期限を過ぎると受給できなくなる場合があります。特に失業保険は離職票を受け取ってから早めにハローワークで申請しなければ、給付開始が遅れるリスクがあります。自分の受給資格とスケジュールを整理し、カレンダーやタスク管理ツールを使って管理することが大切です。

退職給付金は受け取るだけでなく、どう使うかが大事なんです。自分に合った制度を選び、スキルアップや生活安定に結びつければ、将来の不安を大きく減らせますよ